(読書会の告知文なのに冒頭からごめんなさい)
いきなりなんですが、
みなさんは、
あのニョロニョロした「ヘビ」は好きですか?
かわいらしい「イヌ」や「ネコ」じゃなくて、
爬虫類の「ヘビ」の方。
あの姿を見るたびに、
ギョッ!としてしまう方も多いのではないでしょうか。
(自分も超苦手です・・・)
なんでわざわざ、
こんな気味の悪い話を出しちゃったのか?
それについて、簡単に説明してみます。
まず私たちは普段の日常生活において、
いちいち物事の是非を考えながら行動している、
わけではありません。
慣れ親しんだパターンにそって、
あまり意識せずに振る舞っています。
(ある種の自動運転モード)
ところが、
予想していないタイミングで、
「いつものやつ」的なモードではとうてい対処できない。
そんな場面に突然出会ってしまうことがままあります。
この予定調和を乱すものに遭遇してしまうと、
私たちは多かれ少なかれ「エッ!?」と思ってしまう。
(場合によっては、戸惑うあまりフリーズしてしまう)
その外部からもたらされたショックの、
非常に極端な事例として、
「ヘビ」をあげてみたわけです。
(厳密には、本書のとは別の意味での「不法侵入」ですが)
もちろん、そこまでいかなくても、
予期しない出来事に対し、
心に引っかかるような違和感を抱いてしまう。
つまり、
ちょっとした「わだかまり」を感じてしまうのは、
よくあるシーンではあります。
(「わだかまり」を漢字で書くと「蟠り」で、
トグロを巻いたヘビの姿を示している)
そして、それが呼び水になり、
感情的な「わだかまり」を感じてしまう理由や
それらへの対処法などに、
問いと考えを巡らせていくことになるわけです。
これは認知の自動運転の解除であり、
本書における
「私たちが哲学的なものと関わる契機」(p35)
とも言いえます。
ところが、どっこい。
哲学には厄介な問題がひかえております。
それは哲学が持つ相反する性質から導かれるもの。
具体的には、
「万人に開かれた問いと答えの広場」(P253)
というオープンな性質がある一方で、
「高度に専門化された学問分野である」(P252)という、
クローズ的な性質も哲学にはあります。
この相反するかのような哲学の二つの性質に、
私たち素人たちは翻弄されてしまう。
これがいわゆる、
「〈門前の小僧〉 / 〈掟の門前の男〉問題」です。
私たち素人は、この二つの間を行ったり来たり。
木の葉のごとく浮遊霊のごとく、
フラフラするばかり。
とうてい門に入っることがかなわない。
そんな悲しい定めにあります。
(豪快さんや世捨て人のような地縛霊にもなりたくないし)
これと、どう付き合っていくのか。
とてもとても難しい問題です。
(生涯に渡ってつきまとう問題でしょう)
その難問に対し、
本書は全体の記述をとおして、
優しさあふれた「支援」の手を、
「門前の徒」である私たちに差しのべてくれているんです。
いわば、
素人の目線にまで降りてきて、
あたたかく励ましてくれる。
本書の魅力の一つに、
そんな「支援」性もあるのではないかなと、
思う次第です。
(カフカのとは、直接の関係性はないのかもしれないけれど)
そこで、「支援」という単語の意味を
自分なりに敷衍すべく、
漢和辞典の力を借りて、
説明してみます。
まず「支」ですが、
これは竹の枝を手に一本持っている様です。
もう一方の「援」は、
AさんとBさんの二人の手の間に、
手づるとなるものを差し入れる様を
示しています。
今回のケースにならえば、
「〈門前の小僧〉 / 〈掟の門前の男〉問題」に翻弄され、
挫折しかかっている。
そんな私たち読者に対し、
「手がかり(いとぐち)」となるものを提示してみることで
力を貸そうとしている。
それが「支援」の二文字が表している姿
なのではないのかなと思うのです。
そして、この「支援」性は、
読み手側の認識に働きかけるという意味で、
「知的課題を遂行する際の反響板」にも
通じているのかもしれません。
そう考えると、人と人、書き手と読み手、対話と対話。
これらが織りなすものは全て、
この「知的課題を遂行する際の反響板」にもなり得る。
そんな可能性があるのではないでしょうか。
(読書会にも通じる話しですね)
長々と書いてしまいました。
ところでなのですが、
実はとあるページが目に入ってくるたびに
涙腺が少し緩みそうになってしまう。
そんな箇所があるんです。
それは、「赤木昭夫先生に」(P3)。
ご著者にとっての「赤木先生」。
そのような恩師とも「支援」してくれるとも呼べる存在が、
みなさんにはいらっしゃいますか?
そして、その方との関係は続いておりますか?
さらに本書に登場してきたFさんやMさん・イシューマール。
それからご著者の伯父さんやお祖母さんに
相当するような方はいらっしゃいますか?
もちろん、みなさんお一人お一人に、
それぞれおられるかと存じます。
そのような過去に関わりのあった方々を
振り返るきっかけにもなり、
いろいろなものが心に引っかかってきては、
考えさせられてしまう。
私たち読者のこれからを元気づけるだけでなく、
みなさんお一人お一人の過ぎ去っていった、
そして「挽回のチャンスはもはやない」。
そんな来し方についても考えさせられてしまう。
以上の点も、
本書の大きな魅力の一つだと思う次第です。
「お前になにがわかるのか」という自問自答の声とともに。
(注)全体として、『改訂新版 漢字源』(学研)と
『新明解国語辞典(第五版)』(三省堂)を参照
【奥いけ!】『哲学の門前』(吉川浩満、紀伊國屋書店)【第32回奥池袋読書会】
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