NHK大河ドラマ『べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～』第39回で、蔦屋重三郎（横浜流星）が松平定信（井上祐貴）と正面から対峙する場面が描かれた。定信による処罰「身上半減」が施行され、売り物、版木、有り金、調度品といった蔦重の財産の半分が召し上げられていく様子が細かく描写された。

畳や暖簾、品書きの紙に至るまできっちり半分没収される四角四面なお裁きに町民はクスクスと笑い、大田南畝（桐谷健太）も大笑いする場面がある。定信としては「見せしめ」の意味も強かったと思われ、市井の人々に「ここまでやるか」と思わせる表現が随所に見られる。

蔦重は逆手に取り「身上半減ノ店」と掲げて商売を再開するが、蔦重自身も「身を真っ二つってことにございますよね？」と口にするなど、死罪を覚悟せねばならない緊迫感も伝わる。妻・てい（橋本愛）の決死の命乞いが最悪の結末を免れさせるきっかけとなり、ていが朱子学の性善説と厳しいお裁きの矛盾点を突く役割を担う描写が強調される。

定信は更生施設「人足寄場」を設けるよう長谷川平蔵（中村隼人）に指示し、統制と更生をめぐる時代の流れも示される。記事は、この“正義”の対峙が俳優陣の緊迫した演技で際立ち、「精神の殺陣」と評され得る屈指の名シーンになったと評している。史実として蔦重が「身上半減」に処されることは覚悟されていたが、映像化によってその重みが際立っている。