映画「国宝」が興行収入133億円を突破し社会現象となっている背景には、四代目中村鴈治郎の尽力がある。鴈治郎は吉田修一を歌舞伎の舞台裏に招き、吉田の構想が映画化される過程で主演の吉沢亮と横浜流星らの歌舞伎指導を担当したと語っている。

準備期間は約1年半に及び、二人はまず舞踊家・谷口裕和のもとで日本舞踊の稽古を始めたが、初期段階では「ダメだと思った」と本人も振り返るほど苦戦したという。鴈治郎が最初に教えたのは「女になること」であり、模倣から始めて父の映像などで予習と復習を重ね、自分たちの所作を作り上げていった。

撮影は3カ月間に及び、李相日監督は何日もかけて1シーンを撮るなどテイクを重ねる手法を採用した。現場はエキストラやスタッフを含めた高い集中力に包まれ、「国宝沼」と形容されるほどの熱量があった。ラッシュ（未編集映像）を見た鴈治郎は映像や演出、音楽の相乗効果に驚嘆し、カメラマンのソフィアン・エル・ファニらの仕事ぶりを評価している。

最終的に鴈治郎を感動させたのは、吉沢と横浜の「俳優」としての姿であり、特に「娘道成寺」や「鷺娘」、『曽根崎心中』に見られる所作の再現などを通じて、二人がへこたれずに役と向き合った結果が大きかったと述べている。