星野源の「Star」MV（監督：岡本太玖斗）は、フローティング・タイポグラフィを前面に据えた映像表現として位置づけられている。岡本の文字組はアンバランスであり、ときに構築的でもある特徴を示し、明確な動きの方向性や奥行きを与えることはなく、前衛さと緩さを併せもつレイアウトを構成している。

音声と連動して次の言葉へ切りかわるタイポグラフィは、リリックビデオ一般から歌詞の扱いを差別化する意図で用いられている。グラフィック・デザイナーの秋山伸が用いる「フローティング・タイポグラフィ」という概念が参照されるが、本稿では岡本のMVと秋山の仕事が直接的に結びつくわけではないと説明している。

映像全編では星野源が路上や建築内で歌い踊る情景が収められており、背景には一点透視図的な奥行きを伴う構図が多く見られる。こうした空間性と、空間とは無関係にレイアウトされる文字の懸隔が映像の印象を際立たせている。

2回目のサビ「いのちは輝いた」の「の」が3つ重ねられた形象がくるくると回るアニメーションとして示される場面を例に、可読性に対する多様な挑戦が行われている点が指摘されている。縦組みと横組みが混在する表現や、過去のグラフィックデザインをモーショングラフィックスに翻案した位置づけも本文で論じられている。

さらに羽良多平吉や戸田ツトムといったデザインワークとの系譜的共通点にも言及し、細部は「Star」公式映像（1:27）で確認できると記されている。