東京電力福島第1原発事故で一時全村避難を経験した福島県川内村の中心部に、地元の湧き水や植物を使い自然の魅力を詰め込んだ蒸留所がある。移住して昨年開業した大島草太さん（29）が手掛ける「naturadistill川内村蒸留所」である。

薬店の空き倉庫だった建物を改装して昨年11月にオープンし、蒸留器やタンクが所狭しと並ぶ施設で香り付けを行っている。里山に自生する針葉樹「カヤ」の実をアクセントに使い、樹木とかんきつが混じり合う爽やかな香りを特徴とした商品づくりを進める。

看板商品は県内で採れた複数の植物の香りをブレンドした「固有種蒸留酒」で、ジンは常温保存で輸出しやすい点に着目して製造している。大島さんは田村市のクラフトビール醸造所で約3年間技術を学ぶなどの経歴を経て独立し、現在は年間約6千リットルを製造している。

この蒸留所は大阪・関西万博に出展して試飲や販売を行い、5月にはシンガポールでの販売を開始した。今夏にはシソを使った限定商品も発売し、台湾やアメリカへの輸出も計画している。

大島さんは「愛する『福島の香り』を世界中へ届けたい」と語り、地域の素材を生かしたジンで観光やブランドの魅力向上を目指す挑戦を続けている。