イスラエル北部のナハル・アイン・ゲブⅡ（Nahal Ein Gev II）遺跡で、約1万2000年前の小さな粘土像が発見された。像は手のひらに収まる高さ約3.7cmで、女性を背後から一羽のガチョウが抱きしめる姿を表している。

ヘブライ大学のロラン・ダヴィン博士率いる研究チームが発掘し、その成果は『PNAS』誌（2025年11月17日付）に発表された。レオレ・グロスマン教授とナタリー・マンロー教授もこの発見を解説している。

顕微鏡観察や化学分析により、制作者が地元の粘土を用い、約400度の温度で意図的に加熱して焼成したことが確認された。像の表面には赤色オーカー（酸化鉄系の顔料）が塗られており、女性とガチョウの双方に赤い彩色の痕跡があった。

粘土には制作者の指紋が残されており、指紋のサイズから若い成人女性、あるいは成人女性による制作の可能性が高いとされた。研究チームは彫刻の凹凸や光と影の効果を巧みに使って奥行きと遠近感を生み出しており、高度な技術がうかがえると述べている。

この像は、狩猟採集から定住生活への移行期における人々の精神世界を映す資料と位置づけられ、人と動物の関係性を示す貴重な証拠として評価されている。発掘地点はガリラヤ湖を見下ろす場所であり、地域の文化変容を考える上で重要な発見である。